ガラスと鋼鉄でできたやわらかなタワービル
エレヴェータから出ると、そこは水槽の中のような空間だった。すべてがガラスと鋼鉄でできていて、ぴかぴかと光っていて、がらんとしている。ここは地上24階、太陽光の下で見る都心の街並みはけして美しいとは思えないけれど、圧倒的な眺めではある。
さてと。
目指すのは17階であった。地下鉄の改札からすぐに乗れるシャトル・エレヴェータはまず7階に止まり、次に24階に止まるのである。ちょっとだけ窓のそばから地上を見る。高所恐怖症ぎみなので、やはり少し怖い。おもちゃのような車が道路をせわしなく行き来している。
こそこそとその場を離れ、シャトル・エレヴェータの裏手の、あまりぴかぴかしていない各階停止のエレヴェータに移る。
降り立ったのは、開かない自動ドアに両側を挟まれたホールだった。企業グループの名称は標示されているけれど、個々の会社名が書かれたものがなにもない。内線電話もインタフォンも置いていない。困ったね。周囲を見回すと、隅に小さな立て看板があり、用のある者は19階へ来いと書いてあった。
ぼくは柔和で従順な人間だから、口の中で毒づいただけで、大人しくもう一度エレヴェータに乗る。
19階に着くと、フロアの案内板が目に入った。グループ傘下の各会社がフロアのどこを占拠しているのかを標示している。近づいて見てみると、目指す会社が含まれていない。17階にあるはずなのだから当然ではあるけれど。
案内板の反対側の奥に受付カウンターがあって、そこから2人の受付嬢が刺すような目でぼくを見ている。さて、受付カウンターへ行くべきか、担当者に直接電話をかけて行き方を聞くべきか。こんな状況で携帯電話を使うのもみっともない。意を決して受付嬢の前に立つと、彼女たちはにこりともせずに座ったまま黙ってこちらを見返す。
ぼくは名乗って訪問先を告げ、ここの受付でよいのかと訊ねた。
「こちらで受付をいたしますので、そちらの奥でらいふぉしゃかーにご記入をお願いいたします」左側の女性が言った。
「え、何に記入ですって?」
彼女は落ち着いた声で答えた。「来訪者カードです」
受付カウンターの横を入ってゆくと、喫茶ルノアールのようなテーブルとソファがいくつか置かれており、昔のカラオケリクエストカードのような紙と安っぽいボールペンが用意されている。仕方なく一番手前のソファに座って、さっき受付嬢に言ったばかりの訪問先と自分の名をそこに書き込む。再び受付カウンターの前に立って座ったままの受付嬢にそれを提出すると、ようやく歯車が回り始めたようだ。どうやら受け付けていただけるらしい。
左側の女性はどこかに内線をかけると、小さな声でぼくの名前を言い、頷いて受話器を置いた。そして座ったまま小さなプラスティックの名札をぼくの方へ差し出した。ぼくは手を伸ばしてそれを受け取った。「迎えに参りますので、17階でお待ちください」彼女は言った。
名札には「Visitor 来館者用」と書かれている。
また17階に戻るんですかなどとは一切思わず、ぼくは礼を言って再びエレヴェータ上の人となった。
17階では担当の方が自動ドアの向こうでもじもじとしながら待っていた。ぼくは担当者に挨拶し、名刺を交換し、先にいらしていたお客様と合流した。そして首尾良く用事を済ませ、1時間弱ほどでそこを辞した。7階で各階停止のエレヴェータを降りたところで、胸に名札を付けたままなのに気づき、19階まで戻って受付カウンターに置いてある「来館者カードご返却」と書かれたプラスティックのトレイにそれを入れ、再び7階までのエレヴェータに乗った。
さてと。
目指すのは17階であった。地下鉄の改札からすぐに乗れるシャトル・エレヴェータはまず7階に止まり、次に24階に止まるのである。ちょっとだけ窓のそばから地上を見る。高所恐怖症ぎみなので、やはり少し怖い。おもちゃのような車が道路をせわしなく行き来している。
こそこそとその場を離れ、シャトル・エレヴェータの裏手の、あまりぴかぴかしていない各階停止のエレヴェータに移る。
降り立ったのは、開かない自動ドアに両側を挟まれたホールだった。企業グループの名称は標示されているけれど、個々の会社名が書かれたものがなにもない。内線電話もインタフォンも置いていない。困ったね。周囲を見回すと、隅に小さな立て看板があり、用のある者は19階へ来いと書いてあった。
ぼくは柔和で従順な人間だから、口の中で毒づいただけで、大人しくもう一度エレヴェータに乗る。
19階に着くと、フロアの案内板が目に入った。グループ傘下の各会社がフロアのどこを占拠しているのかを標示している。近づいて見てみると、目指す会社が含まれていない。17階にあるはずなのだから当然ではあるけれど。
案内板の反対側の奥に受付カウンターがあって、そこから2人の受付嬢が刺すような目でぼくを見ている。さて、受付カウンターへ行くべきか、担当者に直接電話をかけて行き方を聞くべきか。こんな状況で携帯電話を使うのもみっともない。意を決して受付嬢の前に立つと、彼女たちはにこりともせずに座ったまま黙ってこちらを見返す。
ぼくは名乗って訪問先を告げ、ここの受付でよいのかと訊ねた。
「こちらで受付をいたしますので、そちらの奥でらいふぉしゃかーにご記入をお願いいたします」左側の女性が言った。
「え、何に記入ですって?」
彼女は落ち着いた声で答えた。「来訪者カードです」
受付カウンターの横を入ってゆくと、喫茶ルノアールのようなテーブルとソファがいくつか置かれており、昔のカラオケリクエストカードのような紙と安っぽいボールペンが用意されている。仕方なく一番手前のソファに座って、さっき受付嬢に言ったばかりの訪問先と自分の名をそこに書き込む。再び受付カウンターの前に立って座ったままの受付嬢にそれを提出すると、ようやく歯車が回り始めたようだ。どうやら受け付けていただけるらしい。
左側の女性はどこかに内線をかけると、小さな声でぼくの名前を言い、頷いて受話器を置いた。そして座ったまま小さなプラスティックの名札をぼくの方へ差し出した。ぼくは手を伸ばしてそれを受け取った。「迎えに参りますので、17階でお待ちください」彼女は言った。
名札には「Visitor 来館者用」と書かれている。
また17階に戻るんですかなどとは一切思わず、ぼくは礼を言って再びエレヴェータ上の人となった。
17階では担当の方が自動ドアの向こうでもじもじとしながら待っていた。ぼくは担当者に挨拶し、名刺を交換し、先にいらしていたお客様と合流した。そして首尾良く用事を済ませ、1時間弱ほどでそこを辞した。7階で各階停止のエレヴェータを降りたところで、胸に名札を付けたままなのに気づき、19階まで戻って受付カウンターに置いてある「来館者カードご返却」と書かれたプラスティックのトレイにそれを入れ、再び7階までのエレヴェータに乗った。
by clocken
| 2005-04-28 21:54