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あくせくせずに仕事をしてゆくということ

 いつものごとく仕事で帰りが遅くなったので、タクシーに乗ろうと、途中の駅で電車から降りた。
 駅の周辺は酔っぱらいのサラリーマンと、うだうだしている邪魔なガ…大学生で溢れていた。まあ、金曜日だしボーナス出たばかりだし、しかたがないよな。さすがに空車も少ない。

 ようやくタクシーに乗ると、運転手が「今日は飲んでいる人多いね。すごく混んでますよ」と話しかけてきた。ぼくは同意して行き先を告げた。
 運転手はぼくの言ったルートに詳しくないようで、いちいち道を指示しなければならなかった。道の両側にはふらふらしながら楽しそうに歩いてゆく人たちが連なっている。
「お客さんは今まで仕事ですか」と運転手が訊ねたので、ぼくはそうだと答えた。それからお仕事は大変ですねえ、いやいや、このご時世に仕事があるだけでも幸せですよなどという大人の会話をする。
「私は思うんだけど、家族が食っていく分だけのんびりと稼げればいいと思うんですよ」と運転手は言った。「自給自足というかね。金を稼いだってキリがないでしょう? もっと欲しいもっと欲しいって思ってしまうから」
「そうですね」ぼくは言った。「でもね、ちょうどよく稼げる仕事ってなかなかないですよ」
 タクシーの運転手というのは腹を決めてしまえばそれに近いかもしれない、とぼくは思った。自分のペースで仕事をしてゆくことができる。だけれど、運転手は意外なことを言った。「私は運転手をね、いつまで続けようか、もう辞めようかって毎年考えているんです」
「じゃあ、もうちょっとだけ続けてみよう、という感じで続けているんですか?」ぼくは訊ねた。
「タクシーの運転手をやっていかなくてもなんとか生活はできるからね」彼はなんとなく照れくさそうに言った。「最近は頻繁に実家に行ってるんですよ。実家を手伝って、のんびり自給自足で暮らすのもいいかなってね」
 ああ、いいですね、とぼくは頷いた。「ご実家は農業をされてるんですか?」運転手が“自給自足”と言ったから、てっきり農業だと思ったのだ。
「いや、そういうわけではないんですけどね」
「じゃあ、家庭菜園のようなもので、家で食べる分だけ作るとか」
「いやいや、実家がね、土地をたくさん持っているものだから。親戚とかに貸して、地代代わりに収穫の10%だとかもらってるんですよ。だから米なんて食べきれないほどある。(実家は米穀商をやってるんですよ。)それをこっちへ持ってきて、近所や知り合いに分けたりするのが楽しいね」

じきゅうじそく【自給自足】
〔名・ス他〕自分や自国に必要な物資をみずからの生産だけでまかなうこと。ドイツAutarkieの訳語として1930年ごろから広まる。
(『岩波国語辞典第六版』株式会社岩波書店)
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by clocken | 2005-07-09 18:19
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思考の空転するままに書くことができたら。


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